俳句にチャレンジ＆nbsp;第97回

第97回

句評　　　　　村野　太虚

無礼講白髪多き秋祭り　　穭
　　神人共食の日本では神の食べるものを参列者も食べる。身分の上下を外して祭りを愉しむ。そこに宴会の無礼講の原点がある。神宮における秋祭りのなおらいの景か。笙、しちりきも見える。

穭田
　　稲刈りのおわったあと刈り株にのびてくる細いくきを穭（ひつじ）という。穭田は穭が一面にのびでた田。

青々しひつじ田駆ける孫ふたり　　大雅
　　穭田をのびのび駆けまわる孫ふたりが印象的。
穭田をはしる氷見線魚（うお）くさき　　三郎
　　昔は魚の行商人で活気があった。鰤や鱈や日本海流の鮮魚が氷見線の乗客だった。
穭田やバックミラーにスズメ飛ぶ　　秋水
結実の夢を彼方に穭かな　　文福
　　ヒツジといえども立派な実をむすびたい。
穭田や叶わぬ恋としりながら　　露徒
行くほどに穭ざわめき闇更に　　特許
雀飛び穭穂溢れ里の畦　　空飛

一房で野原際立つ菊の花　　拶木
秋祭り手を振る君を見つけたり　　苑葉
娘描く化粧の母や秋祭り　　耕泉
雲の上思いをはせて月見酒　　大福
夏バテの名残を残しズル休み　　音花
こまぎれの記憶を探す秋祭り　　文福
　　アレやコレや青春時代の秋祭りは思い出はつきない。

秀句三選

地方紙を大きく広げ栗を剥く　　左近
　＜したたかといわれて久し栗を剥く　中曽根康弘＞　という有名な句があるが左近さんの句はそんな生臭い句ではない。地方紙だから東京新聞ぐらいか。
蛸壺の積み上げられし秋彼岸　　雅柳
　＜蛸壺やはかなき夢を夏の月　芭蕉＞やっぱり明石海岸だろうか。積み上げられた壺の中の住人達はもういないのだろう。お彼岸だからもう人間さまの胃のなかにおさまってしまったのだろう。＜霜月や軒に重ねし鰻笊　敦＞鰻も蛸もごちそうさま。
海風や穭千枚空の下　　秋水
　千枚田だから能登の千枚田だ。それが穭田だから日本海の風が晴天に吹きわたっているのだ。

入選七句

零れ萩三千世界みな厠　　靑隹
子の帰省秋茄子撓いて待ちにけり　　山法師
今なおも苔むす地蔵幾歳か　　トンボ
夏惜しみツクツク法師聞かぬふり　　大福
一年に一度酢橘のおすそわけ　　大雅
落ち鮎や跳ねる背びれに夕日かな　　淡雪
娘描く化粧の母や秋祭り　　耕泉

エクステリア&ガーデン