第41回 2012年2月
句評 村野 太虚
雪5句
- 歳長けて春思ふ日や雪催 露徒
<雪催> いまにも雪がふりそうな空模様。
歳長けて、、、この雪催の空をながめながら春をひたすら恋ふ日々である。西行のように。
- 良きことの積もりし雪の白さかな 利涼
うつくしい心も積もる雪もまっしろだ。
- 横なぐる雪をも呑んで猛る海 蓮根
<猛る海>の例句はありませんでした。
おなじ<猛る>をあたると<間歇泉のごとき妻あり鵙猛る インターネット>
- ゆたんぽを抱え眺める初雪や 大福
ゆたんぽと雪は季重り。でも湯たんぽの温かさがよくでています。
<湯たんぽに病みて仏相をりをりに 爽波>
- 軒を越え深いお辞儀の屋根の雪 淡雪
今年は特に豪雪地区のテレビニュースが多い。みんな屋根がお辞儀をしていますね。
<屋根雪をみては予報をたしかむる インターネット>
春4句
- 硬き芽をなぞって春を想いけり 文福
今年はほんとうに異常冷温。如月の29日というのに明日の関東に雪の予報。硬き芽をなぞって春よ来い。早く来い。
- 春浅し吉備の山々陽が落ちて 風水
<吉備>は古代日本の地方国家。岡山県、広島県東部、兵庫県西部ほか。
- 春日和もたれて昼寝自然石 雅柳 煩柵
<春日和><昼寝>は季重り。でも自然石も温められてうとうと。
- 春北風(はるならひ)水子地蔵の風車 五郎
冷たい風に水子地蔵の風車が勢いよくクルクルと。黄泉の国からの風のように不気味。
秀句三選
- 三脈の鎮まりゆくや薄氷 緑舟
<三脈の法> 潜在意識は生命の危険を予知し、生体機能を通じてそれを感知させる法。
作者がとある早春の湖にさしかかり突然胸騒ぎを覚えた。いつものようにそっと右手親指と中指で喉の頸動脈の脈拍をはかる。また左手でその右手の手首の脈動をはかる。三つの脈動にどうやら異常(死脈)はないらしい。危険が身におよんでいる状態は無いと三脈はしらせてくれている。次第に気持ちは鎮まってゆく。ああうすらひのこの美しい湖よ。
- 新雪に足跡付けてどこまでも トンボ
新雪の朝発見した足跡。キツネかな。どこまでも続いている。森の奥まで続いている。私もキュツキュツと鳴る靴で新雪を踏みしめどこまでも足跡を付けてゆく。
<一夜明け足跡つけろ新雪に>
- 尋ぬれば幾度の試練仏の座 利涼
<仏の座> 春の七草の一つ。田平子(タビラコ)。葉は地面にはりつくように重なりあい、円座形になっている。蓮台に似ているところからついた名。
ああ、幾たび試練を重ねてきたことだろう。この仏の解脱への道をあこがれきて。そしてどうやら寂静と涅槃の境地へ近づいてきたようだ。心はすべて平らかで蓮台の上のようである。
入選七句
- マフラーと手袋あれど鼻寒し こころ
- お降りに濡れて生めく龍神木 山法師
- 運気呼ぶ鵜戸の岩穴初みくじ 花水木
- 天竺の花は法悦桜かな 名月
- 長生きもしんどいとある賀状かな 左近
- 刀刃路(*)かくやと寒のかきつばた 緑舟
- 寒椿飾りの稲穂つんつんと こころ
*無数の剣が刃をたてて並ぶ道。小地獄(峰刃副地獄)の中にある。
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