第96回

句評     村野 太虚
名月や望遠鏡は片隅に  露徒
  あまりにも美しい名月にうたれてしまった。気がつけば月観察の望遠鏡など部屋の片隅に忘れられころがっている。

名月
  中秋の満月である。農耕行事に基づいて芋名月ともいう。芋、団子、枝豆、薄などがそなえられる。中秋月見の宴は寛平・延喜のころから行われ中国にない十三夜の月見も同じころ始まった。名月とは「曇りもなく澄み切った月」の意であるが古くから十五夜と十三夜の月の宴に使っている。「二夜の月」にとくに「名月」の字をあてたのは室町のころからである。 健吉

名月に妖しく光る白い肌  淡雪
名月や宇宙で暮らす子もあるか  特許
  <しみじみと立ちて見にけりけふの月 鬼貫>もはや立ちてみずともISSに乗り込んで地球を見る時代になった。
中元やゆきてかえらぬ人もあり  穭
  中元は半年生存の無事を祝い、もともと盂蘭盆の行事をして亡霊に供養するもの。お月さまへいったって亡き人はもうみつからない。
語尾寂し鈴虫邯鄲鉦叩き  文福
  鈴虫邯鄲鉦叩きたちよ、秋の可憐な虫たちよ、なんと秋は寂しいことか。
秋黴雨大文字の火の鎮まりぬ  三郎
  五山の火の人文字も舟形も鳥井の火文字も長い黴雨のために燻り鎮まってしまった。
どこの子と分からぬままの盆の家  雅柳
  どこの子かわからぬ位に大勢がごっちゃになって、このお盆の家は。
物思い思う気もせぬ熱帯夜  大福
孫夫婦見る母の笑顔に癒される  トトロ
盆休み愉しみなのは朝寝坊  蟻
雨後の苔すべてに月の宿りをり  文福
  ひと雨去ったあとの苔の原。すべての苔に雫が宿り、そのひとつひとつに美しい月が宿っているではないか。

秀句三選

入選七句

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