句評 村野 太虚
夏立つや大海原に竿撓う 穭(ひつじ)
豪快、雄渾な海釣り句。入道雲が湧きたっている。大海原だから若しかしてカジキ釣りかもしれない。ロッド(竿)がしなればカジキは艇内に踊りこんでくるかもしれない。巨魚との格闘こそ夏の風物詩。
薫風
夏のみなみかぜで水の上、緑の上を渡ってきて匂うような爽やかさを感ずるのを薫風といった。
薫風やそんなに慌ててどこゆくの 大煇
薫風や蚊を落としけりキンチョ―ル 麻央
キンチョ―ルが蚊を落としてくれたのであとが薫風だ、というのは少し理が勝ち過ぎていませんか。
薫風や火薬の臭い橋の上 玲子
ブッソウな臭い(花火と思われますが)が橋の上に。これまた薫風なのかも。
いい顔でいたいと思う五月晴れ 左近
五月晴れなら多少ウツでもいい顔に。<いい顔でいたいと思う>に諧がある。
新妻の後姿や夏椿 文福
<この里は沙羅とはいわず夏椿 きよこ><原節のその後はしらず夏椿 正穂>
甚平や花に水やるほかはせず 三郎
ががんぼの何くわぬ顔で留まりたる 露徒
アシナガトンボ。蚊のおばさん。風呂やトイレへきてなにくわぬ顔でとまっている。ひょろひょろと弱い。何くっているのだろう。草食にちがいない。足がすぐおちる。2本ぐらいおちてもなにくわぬ顔でとまっている。
農耕馬飾り立てらる夏祭り 文福
岩手県滝沢村の夏の風物詩。200年の伝統がある。100頭ほどの馬ッ子を美々しく飾り鬼越蒼前神社から盛岡八幡神社まで15キロメートル。4時間かけて練り歩く。<ちゃぐちゃぐ馬っこ鼻の上にも飾り鈴> ひごろの農耕の馬達をいたわり感謝する。数千の鈴がちゃぐちゃぐと鳴りわたるるそのひびきが壮観。姫ッこたちも菅笠に可愛いリボンをつけて揺られてゆく。ヒョットすると文福さんもこどもの頃はこの馬っこに乗って行ったでねか。