俳句にチャレンジ＆nbsp;第71回

第71回 2014年7月

句評　　　　　村野　太虚

滝霧や山女引きこむ肥後の渓　　露徒
　　霧が滝のようにあふれ流れてくる、（摩周湖が滝霧で名高い）が、ここ肥後の渓も滝霧が深かった。山女を追ってやってきたが滝霧のためほとんど神秘的な雰囲気だ。山女を渓が引きこめているかのように。

蝉
　　四月末から出る春蝉は別として小型のにいにい蝉が梅雨明け、ついで油蝉がジージーと油を揚げるように鳴く。みんみんは深山蝉ともいいミーンミーンと繰り返し高い声で鳴く。関西に多い熊蝉はシャーシャーと喧しい。七月中旬短期間発生する姫春蝉は希なので天然記念物に指定されている。

蜩やそぼ降る雨はなお悲し　　蓮根
　　ほんとうにあのカナカナの鳴き声はかぼそく悲しい。そぼふる雨はなお悲しい。心の底まで濡れてくる。
庭にきてふた声み声法師蝉　　山法師
酷暑日に追い打ちかける蝉の声　　秋休
蝉の声僧侶の經と重なりて　　花乃
　　わりと取り合わせがいいのでないでしょうか。両者うっとりと涅槃の境地かとおもわれます。
昨年を知るものなけれど蝉時雨　　文福
　　ことしはことしで蝉時雨。去年は何あったろう。なにあったろうと今年は今年を精いっぱい鳴きしきっている。
その道は濃き影燃えゆ蝉時雨　　華風蒼山

朝羅や奈良の仏の伊達行脚　　露徒
　　天衣のうすものを纏い奈良のみ仏達は今日も仏像展示のイキな旅をつづけてござる。
夕凪や水母はいたみ頒けにくる　　赤三
　　夕凪をみすましてあの水母たちがやってくる。あの悲しい水母たちもまた痛みをいっぱい抱えているのだ。それをおすそわけにくるのだ。
故郷や去るもの疎し盆休み　　文福
　　今年も盆休みがきた。兄夫婦は手土産いっぱいの子供づれ、姉夫婦は旦那が病気とかで東京さはなれられねえ。去年もそうだった。ねいちゃん、なんだかすこしウスクなってきたでねか。

秀句三選

だぶだぶのステテコ悲し将棋盤　　大雅
　名人、棋聖なら羽織紋付でもわれわれはステテコで指せるのが将棋の醍醐味。しかも＜だぶだぶ＞、というところで雰囲気がでた。＜悲し＞がダメ押しして表情、性格、人生観まで掘り下げていて句を深くした。ステテコは明治初期、宴席で江戸吉原の太鼓持ちが半股引きで「ステテコ、ステテコ」と踊ったことから由来する。
子供らの消えて夕顔花の刻　　緑舟
　夕顔の花は夕方開き朝しぼむ。路地に遊んでいた子供たち。蝉も鳴きやんでいくぶん涼しくなって子供らも引き上げていって路地も淋しくなったころ、ふとさりげなく夕顔の白い花がさいている。まさに夕顔の刻。
三連の水車キラキラ青田風　　耕泉
　朝倉の三連水車なら廻りつづけて２１０年。江戸時代から堀川の水をまわしてきた。青田のまんなかに堂々の貫禄。そして青田を割ってながれる水をくみあげてキラキラキラキラ。風がさわやかにふきわたる。素的な風景をきもちよく詠った句。

入選七句

なんきんに包丁とられ四苦八苦　　花水木
この夏は焦らず力まずふりむかず　　左近
幾重にも夜空に咲きて花花火　　トンボ
イカ焼きの香り気になる夜店かな　　風水
炎天を隠す雲から降るシャワー　　淡雪
星逢ふ夜少女の髪の香りける　　特許
アマガエルゆらり木の葉のハンモック　　ろんど

エクステリア&ガーデン