第39回 2011年12月
句評 村野 太虚
- 小春日をまとひて橋をわたりけり 文福
<小春日>は陰暦10月の異称。このころ雨風すくなく日和が続くので小春日、小六月などと称美する。<徒然草>に「十月は小春の天気」とあるから中世から使われ出していた。春に対して小春、というのは初冬のころ春がまた蘇ったような温暖な日が続くのでこの可憐な名がつけられた。(健吉)
掲句は、ある橋をわたる時の心懐。状況。<小春日をまとふ>がその人らしい。
紅葉3句
<紅葉>は古来、花、月、雪、時鳥とともに五景のひとつ。
- 川底に帯を織りなす散紅葉 風水
美しくも沈んだややあわれな風情。
- 晴れた日は車走らせ紅葉狩り 肴
颯爽。すがすがしい気分。
- 雨おちて紅葉に染まる枯山水 中州
紅葉葉が雨で落とされたあとの荒涼が枯山水とみえたか。
紅葉名句
- 紅葉して岩湯に老の貌ひとつ 草堂
- 強き灯の照らすところの紅葉かな 草城
- 障子しめて四方の紅葉を感じをり 立子
冬2句
<冬>は暦の上では立冬から立春の前日である節分までをいう。
- 窓ガラス流れる雫は冬到来 音花
つめたい窓ガラスをながれる雫に冬到来をみた。
- 霜月ややかん片手に冬の朝 りう
霜月と冬は季重りながら、やかん片手にが面白い。
冬名句
- 玄冬の鷹鉄片のごとき哉 玄
- 三冬の一冬のこり山尖る 吾亦紅
秀句三選
- 喉仏あがりしままの秋の空 緑舟
高音発声になるほど喉仏がぐいぐいあがり声帯が閉鎖される。のどがしまってくる。澄みきった秋の空のもと。いつも喉仏があがりっぱなしでうたっている隣の人。声きくときぞ秋はきぬめり。秋の空はいよいよ澄み渡ってゆく。
- リハビリに箸で煮大根ふたつ三つ こころ
リハビリ療養所をおとずれれば献立の内容はまず<大根とろとろ玉子とほっこり煮><うすあじなめたけいりがんもと鰤大根><がんもと里芋おから大根煮>などなど。ゆっくりとリハビリ箸でふたつみつ煮大根をつつけば冬の日もやがて暮れてゆく。
- 新蕎麦と直筆の幡蔵の街 左近
信州は月と仏とおらが蕎麦。蔵の町では新蕎麦の時期がくると直筆自慢の幡がはためく。蕎麦の命はまず香り甘み、のど越し。町なかに風が真っ先にその香りを伝えてくれる。
入選七句
- 晩秋や客待つ居酒屋赤提灯 山法師
- 秋風や牧水背負って山下る 花水木
- 南天や難を転じて燃え盛り 利涼
- 廃屋にサザンカ咲きて主を待つ トンボ
- 枯芝と一息ついて見つめ合う 些事
- サンタさん八方美人はもうやめて 茜
- 寒空の澄む月に見る無常かな 待宵
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