第38回 2011年11月
句評 村野 太虚
秋の句 7句
- 秋雨や加賀友禅の裾袂 露徒
「すそたもと」が絶妙。
- 秋深しせせらぎかすか遠くなり 利涼
幽邃(ゆうすい=奥深く静かな様)。
- 峠越え秋の気配に窓を開け 五幸
「開け」は「あけ」であろう。<窓あけて峠の秋を吸ひにけり>でどうでしょうか。
- 肌寒く布団に包まる秋の朝 大豆
「肌寒」は晩秋の季語。<肌寒や滝のとどろく籠堂 浄円><うそ寒や人の形見のもの羽織り 青邨>
- ぼんやりと灯りの灯る秋祭 大豆
「ぼんやりと」は面白い。
- 秋の暮れコスモス色に染まる空 些事
「秋の暮れ」「コスモス」ともに季語ですが、さて何をいい留めたいか。
- 秋になりお庭に出るのが楽しみだ 飽竹城
そうですか。それはよかったですね。といわれます。
秋の名句
- 此の秋は何で年よる雲に鳥 芭蕉
- 秋淋し綸(いと)を下ろせば直ぐに釣れ 万太郎
- 天地ふとさかしまにあり秋を病む 鷹女
- 梵鐘は鳴りたくて在る島の秋 鬼房
- 晩秋や何も映らぬ沼ひとつ とみ子
秀句三選
- カーポート新車を入れし秋の朝 雅柳
雅柳さんは新車を購入しカーポートへ入れた。嬉しいとも愉しいとも感情移入のことばはいっさい使わずとも、爽快な気分がつたわってくる。「秋の朝」の季語の斡旋がいい。簡明、率直で颯爽とした豊穣のエクステリア俳句。
- 赤まんま瞽女に似てゐる野の仏 緑舟
瞽女(ゴゼ)は盲御前、女性の盲人芸能者。三味線や胡弓を弾いて門付を生業とした旅芸人。野の仏とはお地蔵さんのことであろう。地蔵さんのなかに瞽女に似ている貌があった、というのである。「赤まんま(犬蓼=いぬたで)」の季語が瞽女と野仏の背景、風貌をメタファー(隠喩)していて面白い。
- 芋の葉の露玉ひとつこぼれけり 山法師
芋は里芋。あの大きな芋の葉から大きい露の玉がきらりと一粒落ちた。うつくしい。
入選七句
- 色染めし白き山にも秋の風 利涼
- 禍福なき今日の大切遠花火 左近
- 何時の日か暦捲りて木の葉舞う トンボ
- すすき野の銀から金へ箱根道 正幸
- 那智の玉冷たき響き萩の庭 正和
- 手探りの*零余子に触るる二つ三つ 花水木
- 父母に妙に似合いし貴船菊 こころ
*零余子(ムカゴ)
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