句評 村野 太虚
遠き日の交歓の日よ秋の蝉 穭
あの遥かな少年時代の蝉取りをした仲間たちよ。愉しかった日々よ。今は烈夏もすぎて秋となりしよ。
夏
<夏>といっても初夏、仲夏、晩夏とわかれるが、今年は炎帝が異常に長く居座り、四万十市など41度。と、思っていたらもう秋。長夏、短秋か。
眼前に富士を置きたる夏料理 左近
それはすばらしい夏料理ですね。でも 左近さんでは <風鈴のときどき独り言をいう 左近> が面白い。風鈴が思いだしたようにチリン、と独りごとをいうんですね。左近俳句。
夏の果てひこうき雲の空高し 山桜
<空高し>は秋の季語で、<夏>も季語。なかみもすこし増量してくださいね。
夏の蝶一羽舞い降り露天風呂 雅柳
<露天の湯一羽舞い降り黒揚羽>ではどうでしょう。
夏休み我が家に集まりバーべキュウ 肴
<この夏もうからあつまるバーべキュウ> *うから=親族
ひと夏の鳴けば哀れなセミの声 蟻
<なきがらや蝉ひと夏を哭きとうし>
汗をかくビールグラスに夏を見る 一翆
季語3つで構成していますね。
夏厭きた鰤が恋しい富山湾 小鰤
気持ちはよくわかります。でも俳句にするときは詠う標的をはっきりしましょう。富山湾を詠いたいのか、鰤を詠いたいのか、<夏ウンザリ>を唄いたいのか。せっかくのデビュー作、面白い角度ですが。 この冬は小鰤さんの<鰤>句を期待します。
<草に木に夏百日の窶れ見ゆ 友二> *窶れ=やつれ
補陀落の海に向かいて黒日傘 緑舟
留守番の卵を落とし月見かな 耕泉
それぞれの坂を辿りて風の盆 特許
掃苔や暑がる父に桶清水 五郎
ダージリン秋少しずつ砂時計 文福
新涼や雲の流れの速きこと 穭
シャンパンの泡に溶けゆく晩夏かな 文福
どこかの森のなかで挙げている乾杯。うらやましいですね。<溶けてゆく>がいいですね。晩夏が効いていますね。