第85回 2015年9月

句評     村野 太虚
世にふるも色なき風の白衣かな  露徒
  白衣、、、、若しかして老医師か。何十年といろいろな患者を診てきた。何人か天国へも見送った。到底助からない筈の患者の手術を執刀して助け家族に狂喜されたこともあった。いろいろあった。いまはこうしていると寂寥の秋風が白衣を吹き抜けてゆく、、、。 


    秋という言葉には季節をあらわす意味のほかに「もののあわれは秋こそまされ」と古人の言ったように、あわれとか衰えとかいう意味も付属してくるようである。(石原八束)<此の秋は何で年よる雲に鳥  芭蕉>

旅の果てどこに着くやら秋の海  文福
  どの港へ着くものやら、誰が待っているものやら、記者と業務を兼ねて私はつづうらうら。寂寥の海が涙ぐんでいる。
カフエラッテ混ぜる手のしわ秋たちぬ  灰虹
酒恋し山浮き沈む秋の風  露徒
  秋風がやまやま越えてやってくるにせよ私は酒が恋しい。
童天狗獅子連れあるく秋祭り  三郎
  大天狗のうしろ子天狗。天狗の面はないが背に花笠。獅子かた若連中をひきつれ町内をゾロゾロ。
秋澄めり静と動もちランナーは  特許
風の跡触れていたくて夜の秋  耕泉
天高し空の青さも秋の色  拶木
赤き実や色なき風をまとひけり  文福
  珊瑚樹の実か。南天の実か。赤い実がつやつやと。ここは奈良の盆地のとある丘の上か。だあれもいない丘の上か。秋風が丘のうえの赤い実と遊んでいるのか。

秀句三選

入選七句

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