第63回 2013年11月

句評     村野 太虚
赤き実のこぼれて鵯の飛び立てり  露徒
ヒョは可愛いい貌をしているが喧しく鳴く。一斉に飛び立つとき赤い実がこぼれた。あざやかな瞬間撮影。

枯るる
  冬深まり山川草木枯れいろに包まれ満目荒涼の景となる。簡潔に作品の体をなしやすいためか古歌以来この季語の愛用者が多い。この季語を眺めているだけでだれの胸にもさまざまな景が去来するにちがいない。
<冬枯れの木の間覗かむ売り屋敷 去来>

風強し枯葉が庭を舞い狂う  淡雪
凩や大師を背中(せな)に五剣山  露徒
   高松の五剣山。峰が五つに割れている。弘法大師を背に負い凩に見舞われている。
病室を見上げて木枯らし吹き過ぐる  山法師
路地裏に逃げつ木枯らしやり過ごし  五幸
草紅葉掛けた丁石苔生して  風水
枯れすすきシャカシャカ忙しけもの道  五幸
木枯らしが吹きつけ首が縮こまる  トトロ
助六ときめて羽子板市の空  五郎
   付句<夜目に輝く返り花見む 露徒>
初霜や露を抱きし捨袋  穭
   ビニール袋か。この季節、かならずや捨て袋にはキラキラ霜にまじって光っているに違いない露の玉。寸描の景をキャッチしかつ初霜の厳しい季節感を湛えている。
ゆく秋やゆるりくづれる角砂糖  文福
   紅茶のカップのなか、角砂糖はゆるりとくづれてゆく。ゆく秋を惜しむふたりのあいだを時間がゆったりとすぎ、角砂糖は溶けてゆく。

秀句三選

入選七句

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