句評 村野 太虚
蒼天の柿蘭々と落つるまで 露徒
一句に凛烈の気迫がみなぎる。それこそ<蒼天に闘いをいどむかのように>耀いている柿の実。葉も落ちつくして天空にそこだけがあかあかと。いのちの時間が限定されていることで更に蘭々と耀き・・。遭遇した実景がこころのスクリーンに映ったに違いない。
次の句も遭遇の実景です。<ガレージとフエンスはざまに柿の艶 五郎>
冬
立冬(11月7、8日頃)から立春(2月4日頃)の前日である節分までをいう。陽暦では11、12、1月であるが気象学では12、1、2の3ヵ月を冬と定める。
底冷えの黒い湖に冬の月 空飛
雪吊が彼方此方観える冬支度 小鰤
景も句意もよくわかる句になりました。彼方此方(あちこち)に雪吊の光景がみられるようになった。自分の家のまわりはもとより、北陸では雪吊は欠かせない景で、その白眉が兼六公園の雪吊ですね。でも、雪吊(季語)=冬支度(季語)ですから(まわりが冬支度をはじめたわい)もいいですが雪吊そのものを描くとさらに面白さをますのでないでしょうか。<雪吊の芯をつらぬく眞青竹 節子><青空を引っ張っている雪吊ぞ 善昭>
冬来たり遠く夜汽車の音を聞く 山法師
金と銀東京砂漠の木犀花 穭
金木犀、銀木犀が彼方此方に咲いている。まるで東京砂漠へ金銀をばらまいたようだ。
時代祭毛槍足軽八字髭 五郎
大名行列の先頭に赤熊(しゃぐま)と通称よばれる八字髭の足軽が立派な毛槍を<よいやまかよい>と掛け声高らかに投げ合って大名や武士一行の露払いをして練り歩く。
草紅葉掛けた丁石苔生して 風水
降る雨のしたたる枝に百舌鳥一羽 淡雪
さすがの猛禽類も冬の雨に可愛そうな姿。
鍋ものが宴に映える季節感 小鰤
その通りですが、ここはやっぱり<鍋の具体的な現場の内容>をつたえたほうがいいと思います。よせ鍋、闇汁、石狩鍋、鍋焼き、ねぎま鍋、ねぶか汁、いも汁、ふぐ汁、風呂吹き、粕汁、ケンチン汁、ノッペ汁・・。歳時記満載ですね。<闇汁の杓子逃げしものや何 虚子>
ひっそりと影をゆらして秋の蝶 文福
ヒメアカタテハ、ヒカゲチョウなど秋にあらわれる蝶もいるがやはり秋の蝶は弱々しい印象。<影をゆらして>は絶唱。<山中や何をたのみに秋の蝶 蝶夢>