第31回 2011年4月
あぜ道の一隅照らす辛夷かな 利涼
<径寸十枚 これ国宝に非ず。一隅を照らす。これ即ち国宝なり>
昔、魏王が言った。私の国には直径一寸の玉があって車の前後を照らす。これが国の宝だ。
斉王が答えた。私の国には玉はない。だがそれぞれの一隅をしっかり守っている人材がいる。
車の前後どころか千里を照らす。これこそ国宝だ。
「賢は賢なりに、愚は愚なりにひとつのことを何十年継続すればそれぞれものになる。別に偉い人になる必要はないではないか。社会のどこにあってもその立場立場においてなくてはならぬ人になる。その仕事を通じて世のため人のため貢献する。一隅を照らすとはそのことだ。そこに所属する一人ひとりの意識が国の品格をきめ社風を決定する。ひとり一人が国であり、社会であり会社である。」安岡正篤
このたびの東北関東の未曽有の惨禍。この中でも医療の現場に、救急、援護、火災、津波の現場に、また、原発の惨禍防衛の現場に、黙々と一隅を照らす無数の人々があった。諸外国からも国家の品格として賛嘆の言葉を浴びた。
辛夷の花は純白。基部はうすい桃色。芳香をはなち田の桜ともよばれる。あぜ道を照らし芳香でみたす。
<花こぶし白しもののふ潔し 実>
春の雨つたう道筋流れ見ゆ
春の雨職人悲しむ花歓喜
今月は<春の雨>の応募句が多かった。<春雨>は細い雨滴のしとしとと長く降り続く地雨性の雨。木の芽を張り、草の芽をのばし花をさかせる雨である。長雨となることが多いので春霖とも言う。桜をはじめくさぐさの花を催す雨だから、それを待ち望む心が春雨の情趣に対する感受性を養ってきた。
春雨や蓬をのばす草の道 芭蕉
春雨やゆるい下駄貸す奈良の宿 蕪村
春雨や塩屋塩屋の煙出し 鬼城
東山低し春雨傘のうち 虚子
春雨や藁の満ちたる納屋の闇 林火
秀句三選
入選七句