第51回 2012年11月

句評     村野 太虚
いとしき手やわらかき手や山眠る  露徒
 山眠る→冬の山が枯れて深い眠りに入っているさま。<冬山惨淡として睡るがごとし 臥遊録、北宋>
 山は森閑とねむっている。振り返ってみればいとしい手のかずかずがあった。母に握られて眠った幼き日々、心惹かれた人との逢瀬、そしてそばに眠る我が子の息づかい、そこには確かに愛しくやわらかいぬくもりがあった。外は闇。惨淡として山は睡っている。
冬4句
冬→立冬から立春の前日の節分までをいう。冬は鮮明な素材を提供する季節。
  • 晴れ舞台思えばかなう冬の虹 蘭
    <冬の虹>が美しい。念願してひたすら思い続ければこうして晴れ舞台に立てるのだ。
  • 窓辺からちらりとのぞく冬紅葉  蘭
  • 頬伝うまぶた濡らすは冬の雨  名月
    涙が流れてとまらない。外は冬の雨。c頬もまぶたも美しい。豊頬の人にちがいない。<冬の雨>がしっかり効いている。
  • 冬来たり冬を楽しむ自然浴 松宵
    <筆ちびてかすれし冬の日記かな 子規><玄冬の鷹鉄片のごときかな 玄>

  湯たんぽに芯の芯までほだされり 花水木
湯たんぽは中国の唐の時代からあったといわれる。昔は陶器、その後金属、今ポリエチレン。この最近の電気代の高騰、湯たんぽは心もふところも芯まで温めてくれる。

  散落葉風流といいなにもせず  左近
なにもしないでいる、懐手で散落葉を眺めている、これぞ風流ときめこんでいる。そういう自分を眺めている。

  遠き日の髪を飾りし六花かな  耕泉
六花は雪の異称。遠い昔、子供の頃、雪が髪を飾ったのだ。頬を染めて走りまわって作ったのは雪兎か。懐かしく美しい。

  看護婦の足音繁き冬廊下  文福
私はほかの患者とともに病院の廊下に座っていた。長い廊下、老人がひとり杖をついてゆく。わびしい西日のさす廊下を看護婦がせわしなく走りまわる。淡い冬日の中で静と動。生と死の対比が浮びあがる。<冬廊下>の斡旋が効いている。

秀句三選

入選七句

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