第72回 2014年8月

句評     村野 太虚
かなかなや肥後の谷間を深くして  露徒
  肥後山中深くわけいれば山岳そびえ人跡もまれか。おりからあの優雅でどこかものがなしいカナカナの声がみちみちているのである。深山の森閑とした山岳世界をカナカナの声がさらに幽邃な深いものにしてくれる。


  腹部の特別室に張られている薄い鼓膜を強い筋肉の力で振動させて音をだす。雌は唖蝉といって鳴かない。梅雨明けからにいにい蝉がまず出てジージーと鳴く。ついで油蝉が強い声で油を揚げるような声で鳴く。みんみん蝉は深山蝉ともいって高い声で鳴く。関西の熊蝉はシャ―シャ―と喧しい。姫春蝉は7月ごろ希になくので天然記念物。

修羅地獄天人五衰はぐれ蝉  緑舟
悲しげに雨上がり待つ油蝉  風水
仰向きて薄れゆくかや秋の蝉  露徒
  あおむけにそりかえるとき、蝉は鳴き終えいのち燃えつくしたのだ。消えゆく蝉の最後の哀愁か。
チリチリと恋終るまで秋の蝉  穭
  秋までながらえて恋のうたをうたってきた。今はもはやチリチリとたえだえではあるがなお恋のうたをうたっている。
かさあげの防潮堤に海猫の陣  三郎
  津波の町 田老は10メートルの万里の長城で防ごうとしたが20メートルの高波で全滅した。堤があるというので安心して逃げなかったので被害が拡大した。でもさらに14、7メートルの新万里の長城を築こうとしている。ゴメが堤に陣取っている。
鮎跳ねて流木残る雨の後  淡雪
  作者は鮎獲り。鮎と一体の生活。雨がふっても槍がふっても専心これ鮎を獲る。
芋むきし後のかゆみや今年また  特許
  里芋をむくとあちことかゆくなる。今年もだ。
歓声と魂の華闇に消え  花乃
  なにかすばらしいことがあったのですね。
恋ばなの行方ツンツンかき氷  耕泉
  恋の話をしながらかき氷をツンツン。楽しそうですね。
秋風の「氷」の幟少し揺れ  文福
  ああ、秋がやってきたのだ。氷屋さんのあの幟も秋風に少し揺れている。<少し揺れ>が格調と品格をささえ、且つ言外の何かをいわず語っています。

秀句三選

入選七句

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