第50回 2012年10月

句評     村野 太虚
山里は柿に暖とる雨滴かな  露徒
 柿の色はあたたかい。懐かしい。葉が落ちつくす霜の降るころに熟れて晩秋の農村の彩りをつくりだす。
里古りて柿の木持たぬ家もなし 芭蕉
雨が降ってきた。晩秋の雨は冷たい。雨滴がつたわり温かい柿の実で暖をとっているようだ。滴にぬれている柿の実在感がつたわり山里の景がみえる。<暖とる>が新鮮で秀抜。
紅葉8句
紅葉は古代より日本の秋の象徴。落葉樹が晩秋の寒冷にあって紅葉、黄葉し四季を代 表する景物<花、時鳥、雪、紅葉>のひとつとなる。新古今集の序に「春がすみたつた の山に初花をしのぶより、夏はつまごいする時鳥、秋は風にちるかつらぎの紅葉、冬は 白妙の冨士の高値に雪つもる年の暮れまで、皆折りにふれたる情なるべし」
  • 逝く人の熱き思いに紅葉燃ゆ  蓮根
  • 光舞う紅葉の道万華鏡  耕泉
  • 紅葉散りゆらぐ面持ちはかなくも  杏子
  • 行く道の銀杏紅葉に日が射しぬ  雅柳
  • 木洩れ日の山道飾る紅葉かな  風水
  • 五色沼鯉に恋するもみじ晴れ  大雅
  • 銀杏黄葉空いっぱいのキャンパスに  空飛
  • 旅の果て刺身のツマの紅葉かな  文福
    旅さきの宿でふとだされた刺身皿にそえてあった紅葉にも千年の日本人の美的感覚の 伝統が伺える。落ち葉として邪魔者にされる仲間もあれば「刺身のツマ」として有終の美を飾る紅葉もある。「旅の果て」は紅葉自身の感慨なのかもしれない。

  秋風を射貫きて消えし女騎手  五郎
美々しく飾り立てた流鏑馬の武士たち。まず先頭は五十歳前後か。走りつつ弓をつがえ るが肝心の馬がゴトゴトと上下動するので定まらず失敗。二番手の若く美しい騎手、 風のように走ってきてサッと森蔭にきえたあと命中した標的の杉板が割れて舞いあがる。

  切れかけのピンクネオンや秋の風  文福
どこか北国の淋しい街の夜。連れだって飲み屋へでかけた。切れかけのネオン が明滅する店をのぞくとわびしい顔の女性が椅子に座っていた。

秀句三選

入選七句

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